さんぽみちのちしつColumn
第37話 ~あんた、どこのγ線やねん?~
2023年07月10日(月)
放射能と放射線、改めて聞かれると、ん?となる。そもそも放射線とは、原子が崩壊して生じた高エネルギーの粒子の流れであったり、ごく波長の短い電磁波であったりする。その放射線を出すトリチウムやセシウムなどを放射性物質、それから出る放射線の強さの事を放射能と言うんだとか。まぁ、日焼けする紫外線の親戚とでも思えば良い。
十数年前、とある業務で簡易の放射線計を手に入れた。これは本来、自然の環境放射線(γ線)を測定するものだ。私たちの身の回りには幾ばくかのγ線が常に飛び交っている。それは大地に含まれる微量の放射性物質からだったり、地球に降り注ぐ宇宙線の影響だったりする。γ線の線量は環境条件によって異なり、地盤で云えば断層の近くで強くなる。なのでこの測定器を持って野山を歩けば「なんかこの辺に断層がありそうだ」という目安が得られる。断層と言えば温泉。過疎化が進む山里に豊富な湯が湧けばじっちゃんばあちゃん大喜び。地域興しの原動力ともなる。そのお手伝いができれば私も(会社も)嬉しいな。そんな事を夢見るかつての紅顔の美少年?がいたとかいないとか。
ところがこれを手にしてまもなく、あの東日本大震災(福島第1原発事故)が発生し、大量の放射性物質がまき散らされた。弊社のある山形県寒河江市までにはその飛散物質は到達していないと言うが、実際は野外のγ線レベルが従前の1.5~2倍に跳ね上がっていた。また会社回りの側溝掃除を行った際、常時の10倍相当もの高い線量を示し驚愕した事を覚えている。現在でも水田の水路や湿地などで時折かなり高い値を示すことがあり、まだまだ事故の影響は残っている。
γ線は起因の物質によってその特性が異なる。放射能探査に用いるシンチレーションアナライザーとかいう装置であれば、原発で飛散した物質のものか、それとも断層を起因とするものかの区別ができる。だが簡易測定器は、小型で気軽に持ち歩ける軽便さが身上だ。その表示値はγ線の総量を示すので、何が由来のγ線なのかなどサッパリ判らない。本当の放射能探査の装置など、とてもポケットに入れて持ち歩けるような大きさで無いし、気軽に玩具にして良いようなシロモノでもない。こうして私の思惑は詰(つ)んだ。夢の構想は儚(はかな)く砕け散ったのだ。こんな原発事故の被害者もいるのだよ東電さん。
震災直後、この簡易測定器を公共機関に貸し出すように要請された。原発付近から避難してきた方々の衣服や持ち物の放射線を計るそうな。放射線計には違いないし非常事態でもあるので、余計なことは言わずに渡した。でも本来、衣服やモノの表面にくっついた物質の放射線でアブナイのはα線とβ線で、それを計測するのはかのガイガーカウンター(GM測定器)なんだよなぁ。貸し出した測定器はγ線計であってα線やβ線には反応しないのよ。まぁ今更なんだけどね。
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