さんぽみちのちしつColumn
第21話 ~硫黄泉は懐古の香り~
2021年12月10日(金)
国土地理院の地形図で朝日町と白鷹町の境、最上川の右岸側に温泉マークが示されていることをご存じだろうか?場所は大船木橋のやや下流側、国道287号線脇の崖下で国道を走っている分には全く分からない。かつてここには杉山温泉不動の湯という名前だけは立派な入浴施設があったらしい。無色透明の沸かし湯で少し硫黄臭があり、銀山の温泉と似ていたとも云う。
五百川(いもがわ)渓谷周辺及びその延長上には似たような泉質の温泉が多数存在する。温泉として登録されているものだけでも長井温泉・下山温泉・五百川温泉・間沢温泉・小山温泉などがあり、そのほか未登録の湧泉や同様の水井戸が相当数存在するようだ。何れも冷鉱泉で硫黄分を含む単純泉となっている。ところで火山地帯でも無い当地で、これらの鉱泉に含まれている硫黄分はどこから来たのだろう。硫黄の化合物は数十種類あると言われるが、いわゆる温泉の硫黄臭は硫化水素のそれである。その硫化水素の起源は、①火山性ガスに含まれるもの、②有機物の分解によるもの、③硫酸還元菌によるものの3タイプに分かれるそうだ。
①の火山ガスは分かりやすい。草津や蔵王温泉に象徴される酸性の高温泉となる事が多く、温泉の代表格と言えるが、湧出環境が限定的で実際の数はそれほど多くない。
ひとつ飛ばして③の硫酸還元菌によるものは古生層などの古い地層に多く、地中に貯留した硫酸イオンを還元する細菌によって生成するもので、アルカリ性の冷泉となる。地層が若い東北では、殆ど無いタイプである。
平地における硫黄泉の多くは②の有機物の分解によるもので、弱アルカリ~中性を示す。有機物の分解があまり進んでいないものは褐色のモール泉となり硫黄分の少ない単純泉となる。(寒河江市民浴場・山辺温泉など)対して、分解が進むとほぼ透明な塩化物泉となり硫黄分が増加する。(花咲か1号泉・舟唄温泉など)これらは地盤の堆積時に海水と共に取り込まれた有機物が長い時間をかけて分解されて硫化水素を発生するもので、近年の大深度ボーリングにより、塩分と共に湧出する温泉の大半がこのタイプである。塩水は比重が大きいため、地表部の湧泉や浅い井戸の硫黄泉は塩分を含まない単純泉となる。
幼少の頃病弱だった私は、毎年、祖父母について蔵王温泉(高湯)の湯治宿に通っていた。掘り込みの湯船だけがある殺風景な風呂場や雑然とした炊事場、硬貨を入れてハンドルを回すと10分だけ使えるガス台、怪しげな店もあった賑(にぎ)やかな高湯の町並み。硫黄泉の香りに琥珀色のゆったりとした時の流れと共に、他界して久しい祖父母の面影がノスタルジックによみがえる。
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