2023 6月 09のアーカイブ
第36話 ~最上川地下に潜る~
山形県のほぼ中央部、葉山の東麓と村山市の河島山丘陵とに挟まれて、長島という小さな集落がある。地区は西側に長細く突き出た半島状を呈し、周囲を最上川がぐるりと取り巻き流れる。近くには最上川舟唄にもある三難所の内、三ヶ瀬(みかのせ)と隼(はやぶさ)があり白波を立てる早瀬となっている。この辺りの最上川は川幅が狭く両岸が切り立った浸食崖となっており、大淀狭窄部とも呼ばれる。地質は古い時代の凝灰岩で、三難所ではそれが川底に露岩し、舟運の障害となっていた。
令和2年7月28日、山形県を集中豪雨が襲った。特に置賜地域で降水量が多く、橋梁の損壊など甚大な被害を被った。しかしそれほど降雨がなかった下流の村山地域でも最上川が氾濫し、随所で浸水被害を生じたのである。その要因の一つがこの大淀狭窄部の流下能力にあったと言う。河川は降雨により水かさを増すが、その分流速が速くなれば問題は少ない。しかしこの地区は川底が凸凹した岩床となっており、加えて流路が穿入(せんにゅう)蛇行を繰り返している。河床が凸凹していれば流れの抵抗が大きく、蛇行すれば転流の度に流水は勢いを失う。よって水かさが増えても氾濫水の流速が上がらないので、大雨が降るとこの付近がボトルネックとなり、殊(こと)更(さら)に水位が高くなってしまうのだ。
これに対し国と県では大胆な治水対策を行おうとしている。それは長島地区の半島状の根元に分水(捷(しょう)水(すい))路を設け、河道をショートカットして下流側に直接放水してしまおうというものだ。捷水路は通常、大規模な堀割とする事が多いが、当地の場合、上部がそれなりに高さのある丘陵地であるため、地下トンネル方式が予定されている。しかも設置高さや水門の制御により、洪水時のみ通水するような仕組みを検討しているようだ。これにより施工後も三ヶ瀬や隼が干上がることなく、今の景観が大して変わらないと言う。他に類を見ない捷水トンネルは設計技術者の腕の見せどころ。どんな施設になるか刮目して待つべし。
その昔、山形盆地には藻ヶ湖(もがうみ)と云う巨大な湖があり、寒河江市西根と対岸の東根市貴船を連絡する船便があったそうな。藻ヶ湖の湖面の高さは標高90m付近らしいとのこと。くだんの村山市長島地区の古い河道跡(国道脇の水田)もほぼ90m。なのでこの水田面を最上川が流れていた時分は上流側に湖があったことだろう。だがこの高台を最上川が流れていたのは、少なくとも数千年前。とても船便がどうのと言える年代じゃない。思うに、かつては寒河江川も東根の白水川も流路が今とは違っただろうし、近くに船着き場があっても何も不思議は無い。これと太古の山形湖伝説がごっちゃになって今に伝わったのかなと。真面目に研究されている方には申し訳ないが、藻ヶ湖のお話しは古(いにしえ)のロマン、物語りの一つとして気軽に楽しめば良いのではないかな。
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